中村和雄弁護士による講義からメモしたものです。
労働事件の場合多くの手続きの選択肢があります。
裁判所の手続きでも労働審判、通常訴訟、仮処分、調停等があります。
労基法違反の事案であれば労働基準監督署による強制解決手続も利用可能です。
1 労働審判
①デメリット
・主張反論が複雑多岐にわたる場合は不向き
・当事者が複数の場合は不向き
②メリット
・迅速性 3回、概ね3か月以内
・立証のハードルの低下
・70%は調停で解決
・審判に対して異議が出ると訴訟に移行するが、最初から訴訟の場合よりも短期に解決
2 訴訟
①デメリット
・時間がかかる
②メリット
・付加金(あまり認められることもなく、判決出ても支払った上で控訴すれば付加金は課されない)
3 仮処分
・現在は保全の必要性について厳しいスタンス。生活保護と同レベルかについて、預貯金(家族も含む)も提出される場合も
1 事実調査
事件として本格化させる前に資料の収集を(離婚事件と同様)
・タイムカード 本格化すると隠されるおそれがある
・解雇理由証明書 本格化すると専門家による別理由が開示されるおそれがある
・従業員の供述内容 本格化すると表立っては協力しづらくなる
2 請求内容の整理
・解雇の場合は残業代や予告手当も請求できる余地があります
1 解雇と退職の区別
・正当事由(客観的合理性、社会的相当性)を要求する「解雇権濫用の法理」が適用されるのは解雇のみ
・形式上退職であっても実質上解雇の場合も
2 解雇理由の特定
・解雇時に開示された理由以外でも裁判上では追加しても構わない。ただ、追加された理由は疑わしい。そのため、解雇から間もない段階で理由を特定させるようにする。解雇理由を記載した証明書の発行義務がある(労基法22)。
3 解雇後の生計維持
・雇用保険の仮給付 ハローワークで解雇を争っている場合に受給できる(訴状等を要求される)。先に本給付をもらい、訴状等を作成した段階で仮給付に切り替えることもできる。
・解雇予告手当、退職金 退職金をもらって解雇を争っていないと主張されないように、解雇後の未払い賃金へ充当する旨を通知する。
・他社での就労 正社員になる場合解雇を争っていないと主張されないように復職の意思を明確にしておく(内容証明等)。損益相殺がされるが解雇前の平均賃金の60%は相殺対象外(あけばのタクシー事件最高裁判決)。
・地位保全
整理解雇が解雇権濫用にならないためには以下の4要素が考慮されます。
①人員削減の必要性
②解雇回避努力
③人選基準及び選定の合理性
④説明・協議義務
1 人員削減の必要性
・経営状況の分析
・役員報酬支給状況
・採用状況
2 解雇回避努力
・希望退職募集
・新規採用の停止
・経費削減の取り組み
3 人選基準及び選定の合理性
・基準の合理性
賃金の高い順等。裁判所は恣意的基準でなければ合理性を認めやすい。
・基準あてはめの合理性
4 説明・協議義務
1 有期雇用契約の期限制限
上限 原則3年
2 期間中の解雇
「やむを得ない事由」がなければ解雇できない(労働契約法17)。通常の解雇正当事由よりも高い理由が必要。
3 期間満了時の更新拒絶
①期限の定めのない労働契約の終了と社会通念上同視できる
②契約更新が期待できる合理的理由がある
場合は客観的な理由、社会通念上相当性が要求される(労働契約法19)。
・従事する業務の客観的内容
・契約上の地位の性格
・当事者の主観的態様
・更新の手続実態
・他の労働者の更新状況
4 労働契約法18条
期限の定めのない労働契約への転換
5 労働契約法20条
期限の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止。慶弔規定も。
1 残業代の計算
・法外(1日8時間、週40時間を超える) 25%
・休日 35%
・深夜(PM10~AM5) 25%
2 残業代請求における論点
・残業申請手続き
・明示の残業命令
・年棒制
・残業代固定額 残業代込の場合、基本給、残業時間との対応を明確にしておく。
・オール歩合制
・事業場外労働
・裁量労働制
3 対処
①証拠確保
タイムカード、IDカード、業務日報、タコグラフ、パソコンログデータ、手帳、メモ、日記
②労基署の利用
残業代不払いはD労基法24条違反 30万円以下の罰金
③裁判所の利用
・遅延損害金 使用者が「商人」であれば6%。退職後は14.6%(賃確法6)。
・付加金 東京地裁管内は付加金の印紙を要求していない